地震に備える

 

2011年3月11日に、東日本大震災が起こりました。思いがけない大きな災害でした。その時、視覚障害者は、どのような状況に置かれ、どう思ったか、報告がされています。10年前のことで現在は改善されていることもあると思いますが、この生の声を聴き、災害に備えていきましょう。


1.視覚障害者の避難生活の困難さ

(1) だれかが手を引っ張らないと逃げられない!
・地震の揺れが収まっても、家具が倒れガラスの破片で、家の中すら動けない。
・道路も、ブロック塀などの損壊で一変していて、白杖歩行ができる人でも歩けない。
・避難するためには、「近くの人」に手引きしてもらうことが必須。

(2) 避難所でのトイレが最も大変な問題
・「見えない・見えにくい」ことで大変なのは、「トイレに行く」ことだけではない。
最もたいへんなのは、通常のトイレとは全く異なった状態であること。
・水が流れない。設備のよい避難所であっても、ほとんどの避難所で水が止まった。
・バケツの水をひしゃくで「周囲をぬらさないように」流すには?(前の使用者が濡らしていても、後で使用した視覚障害者のせいにされたことも…)
・様々な臨時トイレが続出、その始末方法は、視覚障害者にとっては本当に大変。(紙は別処理、ポリ袋の後始末…、人に処理を頼まざるを得ない苦痛すら存在。)そのために阪神淡路のときは多くの方々が半壊であっても自宅に戻った。でも、津波では戻れない。ヘドロの跡など、一人ではどうにもならない・・・。

(3) 避難所などでの情報の極端な不足:張り紙など
・避難所で重要な貼り紙情報は、貼られたことすら分からない・・・。誰がその情報を伝えるか
・弁当などの支給は、列に並ばなければならない。列の後ろに並ぶのは大変。
・プライバシーを護る段ボールの仕切りは弱視者にとっては依頼しにくい壁に・・・。
・コミュニケーション支援の要望はゼロ。手話と違ってずっと必要、ではないため。地域のボランティアが、話し相手等も兼ねて、巡回するような支援が必要。

(4) 自宅に被害はないのに障害者や高齢者が住めなくなった集落
・家の被害がほとんどなくても避難所暮らしを余儀なくされた視覚障害者も多い。今回特に目立ったのは、集落で唯一の店が流されて生活ができなくなった方々。(小規模集落が多い。健常者は車で隣町まで買い物等ができる。)


次に、東日本大震災で、特に被害が大きかった岩手県・宮城県 仙台市・福島県に在住する視覚障害者の災害発生時とその避難生活でどのような状況に置かれたのか、また困ったことは何かの調査結果です。

調査期間:平成23年12月27日(火)から平成24年1月25日(水)
調査結果:有効回答数78件(岩手県13件 福島県16件 宮城県29件 仙台市20件)

問1. 性別
1 . 男 48名(62%) 2 . 女 30名(38%)

問2.家族に晴眼者の方はいるか。
1 . いる 5 7 名( 7 3 % ) 2 . いない 20名(26%)
※無回答1名

問3.救援活動を円滑に行う為に災害時に個人情報を開示してもよいか。
1.開示してもよい 76名(97%)
2.開示されては困る 1名( 1% )
※無回答1名

問4.今回の災害でどのような被害を受けたか。(複数回答可)
1.全壊 34名(44%)
2.半壊 24名(31%)
3.流出 2名( 3%)
4.床上・床下浸水 15名(19%)
5.原発等による退去 9名(12%)
6.その他 12名(15%)
その他の回答
・大規模半壊。 ・被害は特に無かった。 ・職場が半壊。

問5.今回の震災発生及び状況をどのようにして知ったか。(複数回答可)
1.近所の人から知らされた 16名(21%)
2.TV・ラジオの放送で知った 48名(62%)
3.自治体からの広報で知った 9名(12%)
4.その他 19名(24%)
その他の回答
・携帯電話で知った。 ・家族から教えてもらった。
・地震が発生したことで揺れにより気付いた。

問6.現在何処に住んでいるか。(複数回答可)
1.自宅 36名(46%)
2.仮設住宅 20名(26%)
3.親戚・知人宅 2名( 3%)
4.その他 21名(27%)
その他の回答
・借り上げ住宅。 ・民間のアパート、マンション。
・市営住宅。 ・特別養護老人ホーム。

問7.避難所生活で困ったことについてお答えください。
1)トイレについて困ったことは次のうちどれですか。(複数回答可)
1.トイレの場所 35名(45%)
2.トイレの使用方法 22名(28%)
3.トイレへの移動 37名(47%)
4.その他 16名(21%)
その他の回答
・トイレが汚れている。
・使用中のトイレでノックをしても返してくれない。
・断水のため不衛生。

2)食事について困ったことは次のうちどれですか。(複数回答可)
1.配給等の情報 24名(31%)
2.入手できなかった 17名(22%)
3.飲食場所 6名( 8%)
4.その他 20名(26%)
※無回答 10 名
その他の回答
・避難所には行かなかった。
・家族が一緒だったので特に不自由なことはなかった。
・お店に入っても買えなかった。
・食事の袋を開封することができなかった。
・食事をもらう際に上手く受け取れなくてこぼしてしまった。

3)移動について困ったことは次のうちどれですか。(複数回答可)
1.外出ができなかった 27名(35%)
2.避難所内で身動きがとれなかった 26名(33%)
3.移動するときに手引きの支援が受けられなかった10名(13%)
4.その他 15名(19%)
※無回答10名
その他の回答
・避難所には行かなかった。
・視覚障害者は晴眼者と違うことを理解して欲しい。
・現在の避難所では個別の支援が望めない。
・近くの道路の被害状況がわからなかった。

問8.避難所での支援のあり方についての希望を教えて下さい。(複数回答可)
1.個別支援員の配置 39名(50%)
2.個別の情報伝達 39名(50%)
3.その他 8名(10%)
その他の回答
・避難所には行っていない。
・視覚障害者向けの指定避難所を作って欲しい。

問9.第2次避難所(ないしは福祉避難所)について。
1)第2次避難所に移動したか。
1.はい 15名(19%) 2.いいえ 54名(69%)
※無回答9名

2)塩原や国リハなどの視覚障害関連施設が避難所に指定されたことを知っていたか。
1.知っていた 7名(9%)
2.知らなかった 63名(81%)
※無回答8名

3 ) 2)の回答で知っていた方は避難したか。
1.避難した 0 名 2.避難しなかった 7 名

問10.現時点で外出において必要な援助についてお答えください。(複数回答可)
1.平成23年10月1日から実施された同行援護事業による支援で足りている。16名(21%)
2.利用時間が足りないので増加して欲しい 8名(10%)
3.鍼灸マッサージの出張治療の際の介助 4名( 5%)
4.その他 34名(44%)
※無回答24名
その他の回答
・家族が手助けできない時に援助をして欲しい。
・補助があることを知らなかった。
・バスの増便、鉄道の早期復旧をして欲しい。
・行政から特に支援を受けていない。

問11.現時点で仕事に復帰できているか。
1.自宅での開業を再開している 14名(18%)
2.鍼灸マッサージを含む勤務についている 7 名( 9%)
3.その他 24名(31%)
4.未だ求職中である 21名(27%)
※無回答12名
その他の回答
・仮設住宅なので治療できるスペースがない。
・テナントを借りて営業している。
・廃業してしまった。
・施設はあるが設備が整っていない。
・在宅マッサージで働いている。

問12.今回の震災で国、自治体、団体等からの支援で役立ったものはなにか。(複数回答可)
1.義援金 68名(87%)
2.食料 22名(28%)
3.補装具または日常生活用具 25名(32%)
4.その他の支援物資 14名(18%)
役立った補装具または日常生活用具
・音声時計 ・折り畳み式の白杖
・拡大読書機 ・点字器 ・プレクストーク ・ラジオ
役立ったその他の支援物資
・衣料 ・家電 ・レトルト食品
・点字による被災者支援情報

問13.今回の震災で視覚障害者のために国や自治体にしてもらいたいことは何か。
・個別支援員の配置(できれば車の運転もして欲しい)。
・各支援制度や生活関連等、情報の音訳、点訳をして欲しい。
・視覚障害者で特に一人暮らしの人を自治体は早く把握して避難したかどうか安否確認をして欲しい。
・同行援護事業について、震災時は利用条件等を緩和して欲しい。
・障害種別ごとの福祉避難所を設置して欲しい。
・治療院開業者に対する再建のバックアップをして欲しい。
・信号機など生活道路の早期整備復旧をして欲しい。
・視覚障害者に対して情報伝達が無かったので、支援体制を考え、今後は自宅に訪問して情報伝達をして欲しい。
・国からの支援金の増額をして欲しい。
・避難指示、誘導、安否確認をして欲しかった。
・自治体から視覚障害者に対して何の手助けもなかったので、要援護者に対して支援して欲しい。
・視覚障害者にも公営住宅の早期建設と入居を実行して欲しい。

問14.その他被災生活に関連して要望事項があれば自由にお書きください。
・仮店舗で働いているが、今後は復興住宅の中で仕事をしたい。
・仮設住宅での生活で、目印になるものがない。
・賃貸マンションで生活をする者には、避難所のようにコミュニケーションをとる手段がなく、孤独を感じたので何らかの訪問型の相談援助が欲しい。
・視覚障害者のための専用避難所を設置して欲しい。
・障害者に対する福祉サービスを充実させ安定した日常生活が送れるように配慮して欲しい。街づくり事業を早急に開始し、災害公営住宅等を建設してほしい。
・相談する窓口が多いので、できれば同じ人で生活から心の面まで何でも相談、支援してくれる方がいると助かる。
・避難所内において近くにいた方に援助を求めても「万が一怪我をさせたらいけないので手伝えないですよ」と断られて、大変困ってしまったので、障害者専用の場所を設けて欲しい。
・「ここに連絡をしたら絶対安心」という場所が欲しい。今回の震災での避難場所は病院で身の安全を確保できたが、避難所でないため食事をとることができず、5日間食べることができなかった日々を思い出すと辛いものがある。
・部屋が狭すぎて視覚障害(中途失明)のため、動きが取れずストレスがたまりやすい。仕事もできず、この冬外にも出られず精神状態が悪くうつになりそう。仮設住宅、避難地での生活を余儀なくされている人々(特に障害者を含む災害弱者)に対する心のケアを考えていただきたい。
・日盲連からもらった義援金は役に立った。生活再建のために義援金をきちんと貰えるようにして欲しい。
・治療所の修繕工事に際し、鍼灸は医療分野とされて、事業所修繕費の補助が受けられないことに愕然とした。
・視覚障害者も要援護者になるという情報を発信して欲しい。
・津波の場合は、携帯ラジオが一番頼りになった。
・タクシー乗車もあるが、乗り降りが早くできないと、嫌な顔をされたので、福祉関係の方からの送迎でも受けることができたら助かった。






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