師走の声を聞きながら

 

佐賀県立点字図書館
館長  野口 幸男

 

 

 「コロナ、コロナ」の声の中、師走を迎えております。利用者及びボランティア、ならびに点字図書館を支えていただいております皆さまには、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 新型コロナウイルス感染症が世界中に広がり、国内でも様々な活動に制約が課せられてきました。振り返ってみれば、春のお花見や入学式、夏祭りや花火大会、秋の運動会や佐賀バルーンフェスタ等など、移り行く季節の彩りを失ったことに気づきます。失くしたものを数えるより得たものはと考えると、身近なところではホームセンターのにぎわいが思い浮かびます。自宅の庭で花や野菜を育てるためのプランターや苗の売れ行きが伸びていたようです。5月の上旬、ズッキーニにヘチマ、朝顔とヒマワリと、種を蒔いてみました。柿の種を蒔いた「猿蟹合戦」の蟹みたいに、「早く芽を出せズッキーニ」、「ヘチマも花を見せてみろ」、と世話をしていると、ヒマワリと朝顔の花が咲き、ズッキーニとヘチマが実をつけました。初冬の畑に、ヘチマだけがのんびりと風に揺れています。
 例年であれば、10月には読書会を開催しておりましたが、新型コロナウイルスの感染防止のため中止とさせていただきました。テレワークやリモートの時代ですので、講師による講演を録音してお聞きいただけるように出来たらと、現在準備中です。テーマは、「洋画を中心とした佐賀の美術史」を予定していますので、今しばらくお待ちください。
 8月中旬、知人の「初盆」にお参りに行った際、息子さんに、「お父様には、いろいろとお世話になっておりました」と語り始めました。ある時、知人から「NHKの『ラジオ深夜便』に出るから聞いてほしい」、と電話がありました。放送時間は午前4時、そんな時間に誰が起きているのかと思いつつ、ラジオを聞いたものでした。それから15、6年、午前4時からの「明日へのことば」の熱心なリスナーになっている自分にただ驚くばかりです。番組の中では、様々な生き方や本について語られます。最近出会った「わたしはよろこんで歳をとりたい」(イエルク・ツインク著)は、翻訳の眞壁伍郎氏の講演を数年前に新潟で聞いたことからの縁でした。
 今年の読書週間の標語は、「ラストページまで駆け抜けて」でした。読書週間に読んだ本の一冊は、ハルノ宵子の「猫だましい」。猫や父母の病気や介護のこと、自身の乳がんや大腿骨頚部骨折、大腸がんの治療の顚末が軽いタッチで描かれていて、まさに駆け抜けるように読みました。著者の父親である吉本隆明氏には、昔から大変お世話になりました。作家の吉本ばなな氏の父親でもあります。一度読んだだけでは理解のできないような著作の数々を残されています。70代の頃、彼は海で溺れて意識不明の重体になりますが、一命をとりとめて「老いの流儀」や「老いの超え方」の著作で高齢期の生き方を説いてくれました。拡大読書器を使って本を読まれていた晩年の姿が印象深く思い出されます。
 超高齢社会になったせいでしょうか、前置きに「お父様には、いろいろとお世話になりました」と、親子二世代にわたるお礼を申し上げることが増えています。

 新型コロナウイルスに明け暮れた令和2年が幕を閉じようとしています。
 明るく平和な令和3年を心から待ち望みたいと願っております。
 寒さに向かう季節、皆さまにはくれぐれもご自愛くださいますようお願いいたします。

 

 


                                

 

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