令和の夏

 

佐賀県立点字図書館
館長  野口 幸男

 

 

 この通信がお手元に届けられる頃は、まだ梅雨の最中でしょうか。「令和の夏」と書いてみると、さわやかな風を感じてしまうのは私だけでしょうか。点字図書館利用者及びボランティア、ならびに点字図書館を支えていただいております皆さまには、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 新聞のコラムに見知った名前を発見して、うれしい朝があります。「朝がきて目が覚める。今は何時ごろだろう。エッセイストの三宮麻由子(さんのみや まゆこ)さんは、スズメのさえずりで時間の見当をつける。5時台は、小さく、まばらな鳴き声。6時を過ぎるとにぎやかになり『起きてるかい』『起きてるよ』とおしゃべりしているかのようだ」」(2019年5月6日朝日新聞「天声人語」)。三宮さんは、3月までは「三宮麻由子の名言片言」、本年度は「三宮麻由子のブック・トラベル」という連載を「点字毎日」に執筆されています。4歳で視力を失った三宮さんは、「私にとっては声にも景色があり色がある。もっと正確に言うと、声そのものが景色であり色なのだ」と、著書「鳥が教えてくれた空」に書かれています。
 4年ほど前に読んだ伊藤亜紗著『目の見えない人は世界をどう見ているのか』に引用されていた、「耳で見て目できき鼻でものくうて 口で嗅がねば神は判らず」という、出口王仁三郎の詠んだ歌が思い出されました。「器官にこだわるかぎり、際立つのは見えない人と見える人の差異ですが、器官から解放されてしまえば、見える人と見えない人のあいだの類似性が見えてきます。」という言葉に、目は見るもの、耳は聞くもの、鼻は匂いを嗅ぐものという固定的な考え方ではないものを教えられました。
 この時期、点字図書館の玄関に掛けている色紙は、「晴耕雨読」です。雨の季節に読んでいたのは、『二度読んだ本を三度読む』(柳宏司著 岩波書店)という、何とも本屋さん泣かせの書名の本でした。10代から20代のころ何気なく読んできた本たちを、また読み返してみようかなと思わせてくれるものでした。取り上げられている18冊の本は、夏目漱石の『それから』、中島敦の『山月記』、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』、灰谷健次郎の『兎の目』、ドストエフスキーの『カラマーゾフ』の兄弟、ジョージ・オーウェルの『動物農場』などで、少し辛口の読書案内でした。
 次の点字図書館通信の発行予定は、9月1日です。その頃には、点字図書館の改築工事に伴う引っ越しや、その後の日程なども明らかになると思います。そして、10月27日(日)には、「利用者とボランティアとの読書会」を計画しています。課題図書は、平尾茂著の『そいばってん 佐賀』、「歴史や県民性から方言、グルメまで、佐賀の“スタンダード”を、地元を熟知する著者がゆる〜いイラストとともに紹介」した本です。講師の平尾氏は、朝日新聞佐賀版に「湯ろ酒く 平尾茂の佐賀」というコラムを連載されています。
 令和の夏も、猛暑続きかもしれません。皆さま方のご自愛を祈念申し上げます。

 



 


                                

 

 ←もどる