平成最後の夏

 

佐賀県立点字図書館
館長  野口 幸男

 

 

  いよいよ秋ですね。平成最後の夏、利用者及びボランティアの皆さまにおかれましては、いかがだったでしょうか。炎暑に豪雨に暴風、そして大地震、被災されました方々に心からお見舞い申し上げます。爽やかな季節、利用者及びボランティア、ならびに点字図書館を支えていただいております皆さまには、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 佐賀駅から点字図書館への道すがら、天神橋の信号で待っていると向こうの方でひらひらと振られる手が見えました。ボランティア仲間のタカノさんでした。朝のあいさつを交わしました。図書館の北側に住んでいる方で、登校する児童生徒の見守りの帰りみたいでした。天神郵便局の前では、局長さんが駐車場を開けたり掃除をされていたり、成章中学校の前では先生が立っておられたり、いつもと変わらない朝の風景と時間が流れていきます。
 この1ヶ月、いろんな出会いがありました。8月中旬、映画「もうろうを生きる」の上映会及び監督トークがありました。映画では、視覚障害と聴覚障害が重複された方8人の生きる姿が淡々と描かれていました。「啓蒙的にならないように日々の生活の中から見えてくる人間の本質を撮影した」、と西原監督は語られていました。西原氏が映画の世界に入るきっかけの一つに、土本典昭監督の水俣をテーマにした映画があったと知らされ、映画「不知火海」の胎児性水俣病の少年の姿を思い出してしまいました。
 8月下旬、29年度の読書会の講師でお世話になった深川勝郎氏のご依頼で、「えびすエフエム」の「つながる横丁」という番組への出演を引き受けてしまいました。前半は個人的な打ち明け話、後半は点字図書館の紹介という1時間でした。人はこのようにしてつながっていくのかと思い、私の次は第十四代齋藤用之助氏にお願いし、明治時代に沖縄の近代化に尽力された第十一代齋藤用之助氏のことなどを語ってもらうことになりました。齋藤氏と出会ってずいぶん経った頃、「あなたの名前が『葉隠』という本の中に出てくるけど」と尋ねたら、戦国の頃からの家系で先祖伝来の品々がたくさんあって、とりわけ鍋島のお殿様からいただいた「用之助」という名前は、戸籍上改名の手続きをしているとのことでした。
 9月上旬、かなり重たい出会いがありました。「困っても助けを求めることが出来ない人たち」のこと、食事が温かい物だと知らなかった子どものことなど、ルポライターの杉山春さんの児童虐待についての講演を聞きました。目の前の風景が少し歪んでいるように感じられました。「野球はソフトバンク、人生観は楽天」と口ずさみつつ、問題をかかえた子どもたちを支援しているドイさんの「土井ホーム」の実践も教えられました。
 今年の夏は、猛暑、豪雨や台風に大地震に見舞われました。さらには、旧優生保護法による強制不妊手術や行政機関での障害者雇用水増しも明らかになりました。子どもや女性、障がい者や高齢者などの立場の弱い人たちのところに、自然災害や社会変動や戦乱の影響が集中的に現われてくることを、しっかりと考えさせられた夏でした。
 平成最後の秋が訪れました。くれぐれもご自愛くださいますようお願いいたします。

 



 


                                

 

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