旅立ちの季節

 

佐賀県立点字図書館
館長  野口 幸男

 

 

 冬の寒さが続き、春待つ心が募っていました。そうしてようやく、4月の声を耳にしています。利用者及びボランティア、ならびに点字図書館を支えていただいております皆さまには、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。新たな年度も、なにとぞよろしくお願いいたします。
時折点字図書館に遊びに来てくれていた中学生が卒業式を迎え、お母様と一緒に挨拶に来られました。4月からの新たな旅立ちを職員でお祝いしました。図書館に彼が来るたびに、分数の5分の3と7分の4は、どちらがどれだけ大きいかを通分せずに解いてねとか、「たほいや」の意味って何ですかとか、宿題を押し付けては遊んでいました。「たほいや」というのは、「山畑の猪追い小屋」のことだそうで、この言葉から発した「たほいや」というゲームもあります。ゲームの内容に関心がおありの場合は、ネットで検索してみてください。このように、最近は調べ物はパソコンで済ませていますが、私が広辞苑第2版(1969年発行)と出会った頃は、ほとんどが紙媒体の本や辞書でした。広辞苑は重量も手ごろで、キャベツの一夜漬けを作る時の重しにも使えてとても便利でした。そんな使い方をしていた報いでしょうか、今に至るも言葉の問題に追い回されています。
春は、様々な形での旅立ちがあり、別れと出会いに彩られる季節です。3月12日、佐賀県立盲学校の卒業式に参列させていただきました。卒業生は幼稚部から専攻科まで9名、これまでの学校生活と、これからの活躍への期待が校長先生によって一人ずつ紹介されるなど、とても温かい式典でした。その中で、PTA会長さんが述べられたお祝いの言葉には、心を揺らされました。後日、会長の世戸亜希さんにお願いして、卒業証書授与式の「ご祝辞」を本通信に掲載させてもらえることになりました。以下に、感謝をこめて掲載させていただきます。



祝辞
 卒業生の皆さん、保護者の皆さま、本日はご卒業おめでとうございます。
 お祝いの言葉として、「かけがえのないあなた」を送ります。皆さんはどんな生き方をしたいですか? 視覚にハンディがある以上、常に人に助けてもらわなければならない人生はきついと思います。でも、皆さんはしてもらってばかりいる存在ではありません。皆さんがいてくれたから、自分の生き方を幸せを真剣に考えることが出来ました。頭で理解することよりも感じる心の尊さに気づきました。きっかけはあなたの助けて下さいであっても、あなたからにじみ出る強さや優しさ、思慮深さに触れた人はあなたとの出会いで何かが変わるかもしれません。
あなた方はかけがえのない存在です。
 保護者の皆さま、先の見通しが持てず不安だらけだった毎日。でもたくましく成長していく子供の姿に励まされました。当事者が声を上げ続ければ社会が変わることも学びました。まだまだ心配は続きますが、お体を大切に皆さまも幸せでありますようお祈りしています。
 福田校長先生を始め諸先生方、「難しいよね、仕方ないよね。」と、最初から諦めるのではなく、どうしたらできるかをいつも親身に考えて下さりました。子どもだけではなく親にも寄り添って下さりました。たくさんの深い愛情を本当に有り難うございました。
 勇気をもって人とつながりましょう。スマホは情報をくれますが、心を温めてはくれません。あなたのことを気にかけてくれる人の存在が前を向く力になります。「私ね、助けて欲しいときはカップルに頼むのよ。相手の前ではみんな優しいでしょう。」生き抜くための知恵とユーモアを身につけ、心豊かな人生を送られることをお祈りし、私からのお祝いの言葉といたします。


平成30年3月12日
PTA会長 世戸亜希

 



 


                                

 

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